北寄貝
浜中町(春)
北寄は近海部に住む大ぶりの二枚貝。すし種のほか、貝焼き、炊き込みご飯の具などさまざまな料理に使われて親しまれている。正式な名前は「ウバ貝」だが、北海道以外でも北寄貝と知られるようになった。3月末〜5月のシーズンに水揚げされる浜中産の北寄貝。栄養豊富な海水の影響などで成長が早く、他の産地に比べて強い甘みとやわらかさが特徴だ。
真っ黒な貝殻の中には、肉厚でジューシーな身がみっちり詰まり、コリコリとしたその食感とふくよかな甘みは、他の貝では味わえない独特の美味しさがあり、味や食べ応えでは北寄こそ「貝の王様」だと評する人も少なくない。刺身などの生食のほか、焼く、煮る、和えるなど調理方法も豊富で、火を通すことにより食感も味も大きく変化するのが面白い。
浜中の北寄漁は、噴流式マンガンと呼ばれる漁具を海中に投入する桁網漁で行っている。この漁具は高圧ポンプで海水を噴射し、海底の砂を巻き上げて北寄貝を掘り起こしながら袋網でとらえていく仕組み。貝に傷がつきにくく、漁場を耕すこともできるなど資源に優しい漁法だ。夜が明けてから始まる漁は約1〜2時間。港に戻るころ船には朝日が差し込み、コンテナいっぱいに獲ったばかりの北寄貝を照らしている。
無双の北寄貝の握りには、店主が試行錯誤して生み出したという、新鮮な北寄ならではの食感や風味など素材の持ち味を最大限に引き出す工夫が施されている。貝を開いて取り出した身を、熱した網にのせて香ばしい焼き目をつける。このひと手間がどんなに鮮度が良くても貝に残ってしまうくさみを完全に取り、かつ生の北寄ならではのレア感ある歯ごたえやほのかな磯の香り、北寄本来の濃厚な甘みを感じさせてくれる。口に広がる優しい味わいとうま味。飲み込むのがもったいなくなる。